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「シルヴィアーナ・メルコリーニ、参上いたしました」
父と母が挨拶したあと、シルヴィもその場で頭を垂れる。そんなシルヴィに向かい、クリストファーはふんと鼻を鳴らした。
「今さら、謝罪に来ても遅いんだぞ。お前との婚約は破棄すると決めたのだからな」
王が口を開くより先に、クリストファーが喧嘩をふっかけてきた。
(……この状況で、よくもまあそんなことを言えるわよね)
売られた喧嘩は倍額で買うのがシルヴィの信条だ。
「まあ、わたくし、てっきり破談の書類に署名するために呼ばれたと思っておりましたのに。違いますの? 殿下との縁談、喜んでなかったことにさせていただきますと申し上げたでしょうに」
手にした扇を、ぱちりと開いてまた閉じる。ちらりとクリストファーを見る目は、完全にシルヴィ優位であった。
「な、なっ……」
何も言えなくなってしまったのか、クリストファーが口をぱくぱくとさせる。シルヴィは、扇の陰で、わざとらしくため息をついた。
せっかく夢のスローライフ第一歩だったというのに、クリストファーのせいで台無しだ。
「……兄上」
なだめるようにエドガーがクリストファーの腕に手をかけて引き戻す。それから彼はシルヴィをにらみつけた。
「シルヴィアーナ・メルコリーニ。王家に対する敬意はどうした?」
その発言にシルヴィはかちんと来た。
シルヴィと並んでいる父と母も、今の王子達の発言には相当怒りを覚えたらしい。父が拳を握りしめたのが視界の隅に映った。
(――徹底的にお返しはしておかないと)
戦闘準備、完了。
シルヴィは広げた扇の陰に顔を隠した。
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