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シルヴィアーナが優秀な学生であるのは皆知っているが、メルコリーニ家のご令嬢である彼女が冒険者ギルドに属しているなどという話は出たことがない。
クリストファーは、その点を攻撃材料に使い始めた。
「シルヴィアーナ・メルコリーニなどという冒険者がいるなんて聞いたことがない!」
「偽名を使っておりますもの。わたくしが、冒険者としてダンジョンに潜っているなんて知られたら大騒ぎになりますわ。特例ですのよ、特例」
優美な仕草で、シルヴィアーナは手を振る。手を振ったかと思えば、そこに現れたのは銀のカードだった。
「シルヴィ・リーニ。これでもS級冒険者ですの。ダンジョンに入った記録は、すべて受付がとっていますから、わたくしのアリバイは証明できると思いますわ」
姓も名も、単に本名の一部を取っただけ。
それでも誰もシルヴィアーナとシルヴィが同一人物であると気づかなかったのは、公爵家の令嬢があえて冒険者として活動するなんて今まで例がなかったからだ。
「この半年ほどの間、わたくしも殿下と結婚するのは嫌だなー、ものすごく嫌だなー、破談にしたいなーと思っておりましたの。ですから、今回の件、渡りに船というものですわ――」
右足を一歩後ろに引き、シルヴィアーナはその場で頭を垂れる。王族への最大限の敬意を込めて。
「それでは、わたくし、これで失礼させていただきます。こういう状況ですから、卒業式は欠席させていただきますが、お許しいただけますわね?」
その瞬間、彼女の姿は光に包まれ、大講堂から消え失せたのだった。
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