自由な君に憧れて

2/19
25人が本棚に入れています
本棚に追加
/53ページ
 ――それからしばらくたった、ある朝。葵は、いつものように目を覚ました。でも、もう「今日の始まりだ」なんて考えない。つまらない今日がまた始まるなんて、絶対に。  階下から『母』のずっと変わらない呼び声が聞こえて少し不機嫌になるも、首を振って気持ちを落ち着ける。ふわりと味噌汁のいい匂いが漂ってきて、揺蕩う意識をハッキリと覚醒させていく。  慌てて髪を整え、最後に全身鏡で服装をチェック。完璧なことがわかると、いつもより格段に軽い足取りで階段を下りて行った。 「おはようございます」 「…おはよう。何だか今日は…いつもより、明るいわね」 「え…っ、気のせいじゃ、ないですか?」 「そう」  いぶかしむような視線から逃れるように、葵はふいっと顔を背けた。並んでいる食事がまたしても大好物なことで、逃げ出すのは堪えて席に着く。『母』が、満足げに頷く気配がした。 (我慢だよ、葵…。今日は、部活がある日だもん)  あの見学に行った日から、葵は軽音楽部に見学、または体験入部と言った形で部活に参加していた。ただ、アンプなどは部の備品があるらしいのだが、楽器だけは自分で購入しなければいけない。そのため、葵は楽器が必要ないボーカルのところに入れてもらっている。  教えてもらった活動日は月曜日~木曜日。体験入部だから全部にはこなくてもいい、都合のつく日だけで、と言われていたが、それだけが学校での唯一の楽しみだと言っていいので、これまで一度も休んだことはない。といっても、まだ二週間だが。 「今日は、少し早く帰れそうなの。せっかくの葵の誕生日ですしね。…何か、食べたいものはある? 買ってくるから、ご飯は作らなくていいわよ」 「そうなんですか。では…唐揚げが、いいです」 「わかったわ」 (どういう風の吹き回し…?)  これまで、『母』が葵の誕生日だからと早く帰ってきたことなんてないし、何か買ってきてくれたこともない。それに、別に『母』の機嫌をよくするような言動をした覚えはない。
/53ページ

最初のコメントを投稿しよう!