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(……な、なんだあれ?)
友人たちは座ってなどいなかった。五人とも布団に入って、すやすやと眠っていたのだ。座っているかに見えた友人たちの姿は、眠っている彼らの身体からまるで分身の術のように、半身を起こして浮かびあがっている怪しげな姿だったのだ。
(ゆ、幽体離脱?)
そんな言葉が浮かんだが、その様な特殊な現象が、五人同時に起きるなんてことがあるのだろうか。声を上げて全員を起こした方がいいのか、このまま放置してもいいのか、高田君が戸惑っていると、静まり返っていた部屋に、
「あー、あー、あー」
小さく唱えられる低い声が、繰り返し聞こえ始めた。
「あー、あー、あー」
それは、起き上がった分身の五人の口から発せられていた。読経のように重なる声。でもどの声も、友だちの声とは似ても似つかない薄気味の悪い声だった。
「あー、あー、あー、あーー」
「やめてくれ! やめてくれよぅ!」
高田君の恐怖を煽るように、声は段々と大きくなっていく。これ以上耳にしていると狂ってしまうと、高田君は布団を頭から被りひたすら祈った。早く、夜が明けてくれと ──
「あーあ、よく寝た」
「結局、朝までは粘れなかったな」
「最後まで起きていたの誰だよ? たっつん? それとも濱田?」
「腹減ったなぁ。おい高田、起きろよ。メシ行こうぜ」
にぎやかな声で、高田君は目を覚ました。窓から溢れる朝の日差しで、部屋はすっかり明るくなっていた。
「……お、おはよう」
「おはようじゃねぇよ。昨日は真っ先に寝やがったくせに、起きるのは最後かよ。寝すぎだろ。パンダかよ」
いつもと変わらない五人の友人たちがいた。ほっと胸をなでおろす。昨夜の出来事で、仲間たちが何かに乗り移られでもしていたらどうしようかと思っていたからだ。
でも……。
ワイワイと朝の身支度をしながら、高田君は気が付いた。みんなの吐き出す息が、何故か異様なほどに生臭いことに。
昨夜の幽体離脱や謎の合唱に何か関係があるのか否かは定かではないが、友だち五人の吐く息の臭さは数日間続き、不思議なことにその悪臭は高田君にしか分からなかったという。
高田君が修学旅行で訪れた、京都での夜の出来事である。
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