夜もすがら

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夜もすがら

「今夜は朝まで騒ごうぜ」  修学旅行の夜。当時、中学二年生だった高田君は張り切っていた。  宿泊先の旅館で割り当てられたのは、六人部屋の和室。布団を六枚並べると足の踏み場もなかったが、部屋割りされたメンバーは全員が仲のいいノリのいい連中だったので、彼らと一夜を過ごせることが楽しみで、部屋の狭さなどは全く気にならなかった。  トランプやカードゲームで盛り上がり、それに飽きたら布団の上にみんなで車座になって、尽きぬ話に花を咲かせた。笑える話、くだらない話、Hな話。しかし誰かが「怖い話をしようぜ」と言い出して怪談話がはじまると、高田君は疲れた風を装って狸寝入りをすることにした。怖い話が、苦手だったのである。 「なんだよ、高田。寝ちゃったのかよ」  そんな声も聞こえてきたが、布団を被って気づかないふりをした。きっとしばらくたてば、階段語りにも飽きて違う話題に移るだろう。そうしたらまた話の輪に戻ればいい。そう考えていた高田君だったが、日中の観光名所めぐりの疲れもあったのか、結局そのまましっかりと深い眠りについてしまった。  どのくらい時間が経ったのだろうか。気が付くと部屋の明かりは落とされ、小さな豆電球だけが灯されていた。やはり皆も眠ってしまったのかと、部屋の端に敷かれた布団にくるまっていた高田君が顔を上げると、薄暗がりに他の五人がまだ座っている姿が目に入った。部屋を暗くしているのは、先生が見回りに来たときの対策の為だろうか。まだみんなが起きているのなら、自分も話に加わりたい。そう思った高田君は 「おーい、今なんの話ししてんの?」  と、布団の中から話し掛けた。でも、誰も何も返してはくれない。みな無言のまま、座り続けている。 「おいってば」  再び声を掛けるが、五人とも無反応のまま言葉を発することもなく、薄気味の悪い沈黙が辺りを包んでいる。高田君は考えた。もしかして、皆で示し合わせて、自分を怖がらせようとでもしているのだろうかと。 「なぁ! 無視すんなよ!」  内心の怯えを隠すように、声を荒らげる。暗がりに目が慣れてきたのか、目が覚めた直後より視界がはっきりとしてきた。 (……え?)  目の前の光景に感じた違和感を確かめる為に、高田君は布団から身体を起こして目をこらした。
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