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その影はふっと大きな木からルーンのいる窓の方へ飛んできました。
ルーンがふと気がついたときにはもうその影はルーンの側にまで来ていました。
それは大きなネコです。
小さな子猫のルーンよりも大きくてトラ柄模様をしています。
「やあ、君はここの家のネコかい?」
そのネコの声はとても穏やかでした。
だけどルーンにはとても恐ろしく感じられました。
なにしろそのネコはおばあさんが言っていた“そとのせかい”から来たのだから……
「……キミの他にはだれが住んでいるの?」
ネコは少し困りながらも何も話そうとしないルーンにまだ話しかけてきます。
さすがにルーンも悪い気がしてしきました。
でもおばあさんの言葉も守らなくてはいけません。
ルーンはそう思っていたのです。
「キミは話せないのかい?」
ルーンがどうしても話そうとしないのでそのネコはとても困った顔をしていました。
でもルーンはこのネコともっとお話をしてみたいと思っていました。
“そとのせかい”をもっと知りたい!
でもおばあさんの言葉どおりこのネコも危険なネコかもしれません。
「そうか……話すことできないんだね……」
あまりに話そうとしないルーンに“そとのせかい”から来たネコは残念そうにいいました。
「それなら仕方がないよね。変なこと言ってごめんね。」
ネコはそう言うとくるりと背中を向けました。
このままではそのネコは“そとのせかい”に戻ってしまう。
「ま、待って!」
ルーンは慌ててそう言いました。
するとネコは驚いて、ルーンのほうを振り返りました。
「い、いきなりでごめんなさい!
ほ、ほ、本当はぼく、話すことできるんだ!
そ、それに……も、もっとあなたとお話したくて……
“そとのせかい”のこととか……“そとのせかい”にあるもののこととか……」
ルーンは自分でも驚くほど、早口で次々と言葉を言いました。
我慢していたものを全て吐き出すかのように……
その言葉はまだとまりそうにありません。
「ほ、他にも……他にも……」
「うん、いいよ。」
そんなルーンをネコは優しく止めました。
「一度にそんな言わなくても大丈夫だよ。
僕は逃げたりしないし、キミが知りたいこと全部教えてあげるよ。」
ルーンはそれを聞いて大喜びでした。
「本当に?本当にいろんなこと教えてくれる?」
「もちろんだよ。
一日で無理なら、何日もここに来て教えてあげるよ。」
ネコの言葉にルーンは喜びのあまりぴょんとはね跳びました。
「うん!約束だよ!」
そういうとルーンはさっそく質問をし始めました。
「ぼくはルーン。あなたは?名前教えてよ!」
ルーンがそう言うとネコは困ったように首を傾げました。
「名前?う~ん、とくにないなぁ。」
ネコの言葉にルーンは驚きました。
「名前、ないの?」
「僕は野良猫で誰かに飼われているわけじゃないからね。」
“のらねこ”
ルーンにはまったく分からない言葉です。
でもなんだかかっこいい響きの言葉です。
「時と場合によって、いろいろな名前で呼ばれているんだ。
だからキミも好きなように呼んでいいよ。」
ネコがそう言うとルーンは目を輝かせました。
「それじゃ、ぼくがつけてあげる!」
ルーンの言葉にネコは驚きました。
「キミが僕の名付け親になるのかい?」
ネコがそういうとルーンは大きく頷きました。
「そうだよ!僕がつけてあげるんだ!」
ルーンはそういうとネコさんの周りをゆっくり回りながら考えました。
「う~ん……何がいいかなぁ」
ネコはそんなルーンの様子を見てくすくす笑いました。
そんな様子にもルーンは必死に考えているため、気付いていません。
「えっとね……レンさん!」
しばらくして、ルーンは嬉しそうにそう言いました。
「レン?」
ネコは首を傾げました。
「そうだよ。ぼくの名前をつけてくれた人の名前。
ぼくがこの家に来てすぐに、いなくなっちゃったけど……。」
そう言うとルーンは少し落ち込みました。
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