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そんなフレッシュさんの様子が、お盆休みを過ぎたころから変わっていった。電車に乗ってくると、倒れ込むように手すりに体を預け、本を開くこともなく、ぼうっと車窓を眺めるようになった。肩口でカールされていたヘアスタイルは無造作に後ろで束ねられ、もつれた毛束も目立ってきた。履いている靴も汚れが目につくようになり、鞄で揺れていたハリネズミは、鼻の部分が裂け片目も取れて、無残な姿をさらしている。春先のフレッシュな彼女のイメージは日を追うごとに薄れていき、赤の他人である上林さんでさえも「仕事のストレスだろうか?」「ちゃんと眠れているのだろうか」などと心配してしまうほどに変わってしまっていた。入社当時は張り詰めていた緊張感が、徐々に日々の業務に慣れてきて緩んだころに、「この毎日がいったいいつまで続くのか」とか「自分にこの仕事は本当に向いているのだろうか」とか、悶々として悩み始めた時期が自分にもあったことを、上林さんは彼女を見て思い出していた。そして、その感情の山を乗り越えられたら、社会人としてひと回り強くなれるはずだと、朝から疲れ切ったフレッシュさんを見るたびに、上林さんは『がんばれ』と心の中でエールを送るのだった。
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