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「ふわ~……ねみぃ」
ほわ~っと大きな欠伸をしながら昼下がりの西陽が差し込む廊下を歩いているのは信東学園2年D組、杵柄須王(キネヅカスオウ)だ。上背があり高校生とは思えない落ち着いた風貌と恵まれた体躯は、本人が望まなくとも不良と呼ばれる類いの生徒達を引き寄せる。
須王は廊下の壁に設置された時計に目をやった。時刻は午後1時を過ぎている。本来ならば5時間目の授業が始まっている頃だ。しかし眠気がどうにも取れない。ここはいっそのこと、昼寝をしてしまえばスッキリとした頭で教室に戻れる筈、と。サボりを決め込もうとしていたところだった。
キュキュキュッ……
ダンッ!!
後方から聞こえてきたその音は、リノリウムの床を擦る独特な音と、高所からジャンプして着地した音。
(また巻き込まれるのか……)
須王はうんざりした顔で振り返った。想像通りの光景が目の前に現れる。
「ちょ……!どいてそこのイケメンっ!!」
物凄いスピードで廊下の角を曲がってきたのは2年A組白谷孝弘(シロヤタカヒロ)だ。長めの明るい茶髪を軽やかに揺らし退こうとしない須王に期待するのを止めたのか、ぶつかる数歩手前でフェイントをかけるように足を切り返し、鮮やかに須王の脇を駆け抜ける。その身体能力の高さに一瞬目を奪われた。
そしてそれを追い掛けているのは3年だ。上履きに施されたラインの色で判別出来た。プロレスでもやっていそうな体つきと所々剃り上げた眉が須王の目に止まる。
「だっさ……」
ぽつりと呟いたその一言は、しっかりと相手の耳に届いていたらしい。3年の男は額に青筋を立てながら須王の前でピタリと足を止めた。
「あ?てめえ何だ。2年か?……ったくよ~~~っ!どいつもこいつもクソ生意気なんだよっっっ!!てめえから死ぬか、おお?」
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