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孝弘はニコニコしながら須王が来るのを待っていた。一方須王は先刻のこともあって孝弘には慎重だった。面倒事に巻き込まれるのはもうごめんだからだ。
「杵柄君だよね?」
「そうだけど……何?」
「俺、2―A白谷孝弘っす。さっきはごめんっ!すいませんっしたっっ!!」
謝るや否や、ガバーッと頭を下げた孝弘を見て須王は焦る。只でさえ須王には暴力的な噂が絶えないからだ。もちろんケンカなどしていない。望んでないのに絡まれる。そして相手をする気は更々ないので全力で逃げるのみなのだが、相手と対峙しているところを目撃されただけでも噂が立ってしまう。
須王は孝弘の肩をぐっと掴んで引き上げる。
(細……)
「何ともねぇから顔上げろよ」
「怒ってない?」
「別に……ほら何ともねぇだろ」
須王が手足をプラプラさせて見せる。五体満足であることをアピールしたのだ。孝弘は顔を上げるとそれを見てほっと胸を撫で下ろした。
「何ともなくて良かった!杵柄君強ぇんだな!」
「いや、あんなのまともに相手してたら今頃俺ここにいねーかもしれねーし」
「え?」
「ところで白谷、お前何であんなのに追われてたんだよ?」
「あー……それについては……、そうだ、一緒に帰れねぇかな。ここじゃ話しにくいことなんだよね~」
須王はそう言われて頷いた。いつの間にか須王と孝弘は教室中の視線を集めてしまっていたらしい。
二人はごく自然な流れで連絡先を交換し、放課後、校門の前で待ち合わせすることにした。
終業のチャイムが鳴り、須王は教室を出る。
(人懐こくて俺の周りにはあんまりいねぇタイプ。見た目も何だか可愛らしいし)
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