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そういう意味では孝弘の存在は興味深い。須王の周りには自然と強面な面子が集まって、面倒なケンカに巻き込まれることも少なくない。だから孝弘の登場は物凄く須王にとって新鮮だった。
須王が校舎から出ると校門前で数人の生徒が揉めているのが見えた。
大柄な生徒に小柄な生徒。胸ぐらを掴まれているのは小柄な方だ。
「白谷!」
それが孝弘とあの時ぶつかった3年生、熊田だとすぐに気付き、須王は走り出した。助走をつけて蹴りを繰り出す。須王の足首が丁度熊田の首に引っ掛かるようにヒットし、熊田は孝弘を掴む手を離しよろめいた。
すかさず須王は孝弘の手をとり走り出す。
「う、わっ。杵柄……君」
「取り敢えず走れ!」
須王は脇目もふらず走り続け、後方からの追っ手がないことを確認し、駅前商店街の一角にあるカラオケネットカフェへと入って行った。
「ゲホッ……」
走り過ぎて咳き込む須王を横目に孝弘は涼しげな顔で部屋を選んでチェックインの手続きをする。
(スタミナおばけかよ)
須王はそんな孝弘に只々感心するばかりだ。もしかしたら助けなくとも孝弘は自力で何とか出来たのかもしれない。そう考えると自分のしたことが只のお節介だったように思えてならなかった。
二人は部屋へ案内され、須王は壁に沿って設置されているソファーへすぐに腰を下ろし、ふーと息を吐いた。
「杵柄君巻き込んでごめんね。何か俺飲み物とってくる。何がいい?」
「んじゃ、コーラ」
「おっけー」
ニコニコとしながら部屋を出るその後ろ姿を須王はぼうっとしながら見ていた。
(あいつ何であんな野郎につけ回されてんだ?)
知り合ったばかりだが、孝弘はどこからどう見ても人に恨みを買うような性格ではなさそうだ。
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