俺にとっては可憐な花

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しかし紺の手が降り下ろされることはなかった。 (くそっ……なんだこいつ……) 奏は近くで見れば見るほど、肌はきめ細かく滑らかで身体の細さも儚げだ。この顔に自分の拳を叩き込めば、いとも簡単に奏は吹っ飛び大けがを負うだろうと容易に想像がついた。これでは弱いものいじめにしかならないし、そんなのは自分の肌に合わない。紺はそう思った。 「や、やめてくれ龍雅崎!奏ちゃんはケンカ向きじゃねーんだよ!相手なら俺達がするからよぉ!」 奏の仲間は必死に奏を守ろうとする。 何故? 紺は不思議だった。 喧嘩もろくに出来ないで、これではまるでヤンキーに憧れてる子供のようではないか、と。 「なら最初からちょっとぶつかったぐれーで絡んでくんじゃねーよ……ばかばかしい」 「……っ」 ふっと紺が気を抜いたその時、奏が握っていた拳を紺の頬へと放つ。 パチン と紺の頬から軽い音がして、思わず紺は奏を掴む手を放してしまった。その隙にするりと奏は抜け出すと仲間に守られるように囲われながら廊下の先へと消えて行った。 残された紺達はしばらく呆然としていたが、はっと我に返り、お互い顔を見合わせた。 「さっきのはパンチのつもりだったのか」 「……だろーな」 「姉ちゃんちの子供のアンパンチがあんな感じだったぜ」 「マジかよ、うける」 「それにしてもアイツ、なんでこんちゃんに喧嘩売ったんだろーな」 「わかんねー。謎。つーか、ありゃ森岡さんのコレだろー。じゃなきゃ性欲処理班的な」 と、隣にいた一人が小指を立てた。 (森岡のオンナ……性欲処理班……) ぎゃはははと笑う仲間の話声を紺はどこか上の空で聞いていた。胸がむかむかする。頬を叩かれたからではない。奏を引き寄せて胸倉を掴んだ時の奏の頼りなさ、似合いもしないオールバックに大きなアーモンドみたいな瞳。
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