俺にとっては可憐な花

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黙って話を聞く紺に奏がおずおずと手を伸ばし、紺のTシャツの胸元を掴んだ。その手にぐっと力が籠る。 「お前は知らないだろ……。俺はいつも見てたんだ、お前を。仲間といつも楽しそうにしてて、ケンカも強そうで……、お前みたいに生まれていたらもう少し俺も違ってた、かも……。……もっと、強くなりてぇ」 いつも見ていた、紺はその言葉に妙に納得してしまった。奏が自分に無関心であれば自分も奏がこんなにも気にならないだろう。 だけどそんな風に見られていたなんて。 紺の手がそっと奏の手を包む。 「お前は変われる。変われるよ」 変われると紺に言われると本当にそう出来るような気になってきて、奏はこくりと頷いた。 奏の心はこの時、もう覚悟を決めていた。 ************** 『奏をマワせ』 翌日、Rの間でこの文面が伝達された。 奏は逃げ惑っていた。自分に味方はもういない。それを痛感して息を切らす。苦しい、助けて欲しい……こんな事になったのは全て自分のせいなのに、救いの手を差し伸べて欲しいと思う自分が心底むかつく。 遡ること15分前。見知ったRの3年2人に呼び止められ、何かと思ってついていくと溜まり場となっている滅多に人が訪れない第二体育倉庫へ押し込まれた。押さえ付けられ胸元のボタンを外されると嫌でも何が目的かわかってしまう。抵抗する奏に押さえ付けている一人がポケットからスマホを取りだしSNSでやり取りされているメッセージを見せた。 『奏をマワせ』 奏の背筋が凍りつく。予想していたことが現実のものとなってしまったのだ。 「奏ちゃん、ごめんね~。俺らも本当はこんなことしたくないけど森岡の命令だし、逆らうと俺らもやべぇんだよ~」
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