俺にとっては可憐な花

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ごめんねと言っている男の顔は厭らしく笑っていた。 (くそっ……どうすりゃいい……無理だろ) この状況を打破する事を諦めようとしている自分がいる。けれど、頭の片隅で、紺の声が聞こえた気がした。 変われるよ、と。 (諦めちゃダメだ。これじゃ何も変わらない) 奏は体の力を抜いて抵抗することをやめて見せた。それを見た男達も気が緩む。その隙をついて相手の股間を蹴飛ばし、やっとの思いで逃げ出すことが出来た。 下校時刻はとっくに過ぎている。だがRの連中は奏を捕まえる為に居残っていた。どこへ逃げても誰かしらがいる。そんな状況に奏は追い詰められていた。 「奏ちゃん……いねぇ?靴持ってきてやったぞ。逃げるなら手伝うけど……いねぇの?」 音楽室の隅に奏は身を隠していた。そこへ現れたのはいつも奏を護衛するようにして行動を共にしていた仲間の一人だった。 奏は今にもプツリと切れてしまいそうな緊張の糸を緩め、聞き慣れた仲間の声の元へ行くべく姿を見せた。 「奏ちゃん!ここにいたんだ」 「……悪い。こんなところ他の奴らに見られたらお前もただじゃ済まないだろ。靴置いてさっさと帰れ」 「俺なら大丈夫だよ奏ちゃん」 「は?……お前、俺の靴は?」 「あれ。あはは、おっかし~な。靴どこいったんだろ」 男は靴など持っていない。男は奏の腕を掴むとその場に奏を押し倒した。 「ってぇ……てめぇ、騙したな」 「こんな美味しい状況逃す手はねぇじゃん。前から奏ちゃんのこと抱いてみてーなって思ってたんだよね」 「ふざけんなっ裏切り者、てめーなんかに誰が」 「今まで散々守ってやったんだから、少しくらいいいだろ」 「……っ」 奏の瞳が涙の膜で覆われる。今まで友と思って接していた奴にまで裏切られるなんて思ってもみなかった。 奏の心は折れる寸前だった。
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