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「龍雅崎、遅くまでご苦労さん!助かったよ」
「うへぇ、マジで外もう暗くなってんじゃねぇか。今度昼飯奢れよ、桜海掘センセ(オカボリ)」
「おう、悪かったな。気を付けて帰れよ」
「あぁ」
担任教師の桜海掘に頼まれて、今度の授業で使う資料のホチキス留めを手伝っていた紺はこの日偶々遅くまで校内に残っていた。桜海掘は年齢の割りに童顔で、気さくで話しやすい。何事にも親身になり生徒の立場から問題解決しようとしてくれる。そんな姿勢が生徒には好かれていた。そんな担任から声を掛けられ、紺は面倒くせーなと思いつつも断る事が出来なかった。
紺は鞄を手にし肩に引っ提げ廊下を歩く。
ふと目に留まった。反対側の別棟校舎5階、音楽室に明かりがついている。そこにSの宿敵であるRの連中の見知った顔があった。
第六感が働いたのか紺の胸が妙にざわつき、手がじとりと嫌な汗で湿り気を帯びる。
頭を過ったのは奏の顔だった。
紺は音楽室目掛けて走り出す。階段を駆け上がり棟を繋ぐ連絡通路となっている渡り廊下を全速力で駆け抜けた。
息せき切って辿り着いた音楽室のドア前にはRの生徒が一人座り込んでいる。見張り役だとすぐにわかった。
「おい……てめー、中で何やってんだ」
「っ、お前、龍雅崎!……ぐっ」
紺は目の前の男の胸ぐらを掴み上げ、ぐいっと捻る。首もとを絞められた男は苦し気に呻きながら後ろ手にドアをどんどんどんと3回叩いた。
中からガチャと内鍵を開ける音がして一人が顔を出す。
「なんだよ、何かあったのか……うあっ!」
紺は握っていた男の襟元をパッと放すと、すかさず顔を出した男に遠慮なくヘッドバットを叩き込む。男はその勢いで後ろに倒れ込んだ。
ドアが開く。
紺は開かれたドアの先を見て愕然とした。
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