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宛もなくただ歩く。あるのは多分あっちが自分の家だというぼんやりとした方向感覚だけだった。家に帰りたくない今、その方向感覚からも遠ざかりながら歩いていた。
ぎゃはははは……
聞き慣れたような品のない笑い声が聞こえてなんとなく足を止めた。
(公園にタムロするただのヤンキーか)
遠目から見て自分と同類だと認定すると足が自然とそっちへ向いた。
(くだらねぇ連中。あんな奴ら、生きようが死のうが、誰も気に止めやしない。俺だってそうだ。何の役にも立たないクズ)
(……それでも、俺が死んだら、誰か一滴でも、涙を流してくれるのかな)
奏は勝てないとわかっていながら、ブランコに揺られながらタバコを吹かす連中の側へ歩いていく。奏の存在に気付いた男達はにやにやしながら立ち上がった。
「こんばんは~、ボク?それともお嬢ちゃん?」
下卑た笑いと共に一人が奏に手を伸ばす。奏はその手を払い落として持っていた鞄を相手の顔面目掛けて叩き込んだ。
「死ねよ、カス」
男達の顔色が豹変する。
奏はまるで他人事のようにそれを見ていた。
***************
「アイスが上手い季節になってきたな~」
「本当だね。こんちゃんの一口頂戴よ」
「あぁ?おま、一口がデカい!」
「あっはは~」
紺は近くに住む幼なじみの笠岡三織と歩いていた。三織は強面の紺と違って見た目は大人しいごく普通の少年だ。少し体が弱いので紺はいつも三織を気にかけている。この日は三織から宿題を教わる代わりにアイスを強要され、コンビニまで買いに行き、自宅へ戻る途中だった。
「……ん?こんちゃん、何か聞こえない?」
ふと三織が足を止めた。
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