俺にとっては可憐な花

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地元ではヤンキー校として有名な信東学園。学園内にはいくつかの派閥が存在し、中でも3年の森岡裕司(モリオカユウジ)を筆頭とするチーム通称Rと、同じく3年の杵柄須王(キネヅカスオウ)率いるチーム通称Sが勢力を拡大し学園内をほぼ二分にしていた。 森岡と杵柄の間に確執があるわけではない。だから対立する理由ももちろんなかった。だが集団の規模が大きくなるにつれ、配下の者達は下らないことに難癖をつけてはそれを争いの火種にするのだった。 ここにもまた例に漏れず、睨み合っている二人がいた。どちらかが動けば殴り合いにでも発展しそうな一触即発の状態だ。 事の起こりは些細なことで、仲間同士で廊下を歩いている最中に肩と肩がぶつかった。それだけのことだった。 「おい、待てよ」 「あ?」 呼び止めたのはR所属2年B組赤坂奏(アカサカカナデ)だ。呼び止められたS所属2年C組龍雅崎紺(リュウガサキコン)はまさか自分がケンカを売られているとも思わずに、何の気なしに振り返る。振り返って見知った顔に暫し見惚れた。 (こいつ……Rの奴だ) 奏は線が細く男にしては相当華奢だ。顔立ちもまた男にしては可愛らしかった。金に染めた髪を無造作に後ろに流し、シャツの前を大きくはだけさせた姿は最早粋がっているようにしか見えない。対して紺はグレージュのショートヘアーにがっしりとした体つき。加えて顔は整ってはいるがつり目である。紺の着崩した学ラン姿を見て、そう易々とケンカを売るものはいなかった。それなのにこの美少年奏はどこからその勇気が湧いてくるのか紺に勝負を挑もうとしていた。 「いてーんだけど、肩。ぶつかっといて詫びの一つもなしか。ああお前Sの奴か。Sは小心者集団のSだって言われてるの知ってるか?」 これ見よがしに右肩を押さえる奏もまた紺の事を知っていた。
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