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序、
私のこの行為がある種の下劣な欲望によるもの、例えば彼女の裸体でも期待しているのであれば、まだ己の劣情を責め立てることも容易だろう。あるいは江戸川乱歩の『屋根裏の散歩者』の郷田氏のように、他人の私生活を覗くこと自体に快楽を覚える異常者ということであれば、己が業の深さを嘆くこともできるだろう。しかし実際はそのどちらでもなく、ただ名前の付けられない欲求の取扱いに困り果てている。
いや、きっと事実は簡単な話で、私はあの女にどうしようもなく惹かれており、この欲求は本当は恋慕というありふれた名前をしているだけなのだろう。
だが問題は、私はあの女の顔も性格も知らないということだ。
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