オブリビオンの妻

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「あれか、あれは人形だ。お前とそっくりな人形だ。まだ改良の余地はあるが。・・・実はなあ、前の会社でクビになって二ヶ月後には今の会社に内定していたんだ。そうなると俺は単身赴任になるから、お前と夜を共にすることは出来なくなる。だから、お前とそっくりな人形を作ることに決めたんだ」  これはまた晴天の霹靂だ。返す言葉がない。 「じゃ、内定があってから二ヶ月も部屋に引き込もり、その間、私とそっくりな人形を作っていたというわけ?そんな時間があるんなら、関西ではなく、関東の地元で就職先を見つければよかったんじゃないのよ。私が焦っていたと思うの?私はそんな器の小さい女ではないわ」 「それはだな、一度は環境を変えてみたいという、俺の願望もあったんだよ。言って見れば、マンネリの結婚生活を一新するためだ。それが証拠に、あの人形を抱く度にお前が恋しくて堪らなくなったんだよ」 「私が恋しくて堪らなくなったですって?だったら、今、このベッドで私を求め尽してよ。弱くなったとはどういう事なのよ。私とそっくりな人形には満足して、生身の私には満足出来ないという訳?おかしいじゃないのよ」  私は夫が弱くなったようには思えない。精力の出し惜しみをしているようにしか思えないのだ。 「それは、どう言ったら良いか、・・・お前、以前とすこし変わったんじゃないのか?」 「どう変わったのよ。私が老けたとでも言うのかしら」 「・・・・・」 「ああ、そう、言わなくてもわかるわ。だったら、是非ともあの人形を見なくてはならないわね。さあ、見せてよ!どんな魅力的な人形なのか、とくと見てみたいものだわ」
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