オブリビオンの妻

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「そんなことが出来るか!この人形はあくまでもお前の代替物なんだ。余りなことを言うと、俺は人形ではなく生きた女を相手にするぞ!」 「私を脅迫する気?つまり、私たちは別れるということなのね」 「誤解するな。生きた女とはお前のことだ!お前を人形にしてやるんだ。生きている人形にな。それなら俺も元気になれそうだぜ」 「私を人形にするということ?....、構わないわよ。じゃ、そうしなさいよ。人間だと思わなくていいから。わたしをこの部屋に閉じ込めなさいよ。二度と外に出られない様に、私という人形をとことん(もてあそ)びなさいよ」 「じゃなあ、この人形が着ている下着、服に着替えろ。その前に、お前のその肌だ、その無数の皺を隠せ!昔のお前に戻るんだ!それが出来るか?」  夫は突然暴君となった。それも止むを得ない。私は人形になることを望んのだから。でも、この先毎日、(しわ)隠しが続けられるだろうか。特に顔以外の肌の皺隠しが大変だ。でも、自信はないが、なんとかしなければならない。 「皺隠しね、いいわ、隠して見せるわ。今からシャワーを浴びて、本格的に化粧をするわ。美容院に行くほどではないから。私、この部屋であんたと住むわ」 「人形は喋らないぜ。お前は喋ってはならん。俺の言うとおりにすれば好いんだ。言っておくが、このアパートの部屋は音が洩れるんだ。真夜中にもなると隣の部屋から怪しげな呻き声が聞こえるときがある。それと同様に、この部屋の音も隣の部屋に洩れているはずだ。それだけは覚悟しておけ。それに、お前は人形なんだから、俺が外で何をしょうが口出しは出来んからな」  とっくの昔に私は夫好みの女になっているはずだが、一応言っておこう。 「私を、あなた好みの人形にしなさいよ」 「黙れ、喋るな、俺の命令に従え、これからは旦那さまと言うんだ」 「かしこまりました。旦那さま....」
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