31人が本棚に入れています
本棚に追加
好計の夫婦
「おい、東京に戻らなくても良いのか?留守宅が気になるだろう。一度東京に戻って家の中を片付けてから正式に此処に引っ越ししたらどうか?」
俺は心にも無いことを言った。これも俺が気配りをする男になったことを女房に印象付けるためでもあるが。
「そうだわね。そうしましょうか。ご主人さま、私が居ない間、あの棚の人形と戯れるのね」
ご主人様か、何度聞いても気分が良いものだ。本気で俺の人形になる気だのだな。
「戯れるだと?....そうだよ、でもな、あれはあくまでもお前という人形の代用物に過ぎん。お前が居ないとき、俺は一体どのようにして寂しさを紛らわせばいいんだ。生きている人形の方が良いに決まっているだろうが」
生きている人形か、他にも巷には多々いるが....。
「そうだわね。あの人形より私という生きた人形の方が良いのね」
「その通りだ。言い忘れていたが、会社の社長から夕食の招待を受けている。場所は垂水区舞子海岸近くにある別荘だと聞いている。招待されているのは俺を入れて管理職の三人だそうだ。俺としては断るわけにはいかない。先方は出来れば妻同伴で来て欲しいと言っている。今日お前が来てくれて丁度よかった。俺と一緒に行ってくれ。食後にはダンスをするらしい。庭にはプールがあるから水着を持参したらとも言っていた」
俺は社長に妻の水着姿を存分に見せびらかせてやりたい。妻の肌の美しさを夜のプールサイドの灯りがどんな風に照らし出すか、見ものだ。
「社長は俺より相当年上だが審美主義者で美しいものに拘る性格らしい。お前がそれに相応しい肌の美しい女であることを存分に見せてやってくれ。この歳で俺が出世するには、ありとあらゆる手練手管の策を講じなければならんからな」
「その招待はいつなの?」
「来週の土曜日、夕方の六時からだ。一晩泊まったらどうかとも言っていた」
「わかった。断る訳にいかないわね。私はあんたの人形なのだから」
俺にとっては、これは場所を変えての悩ましい夜を存分に楽しめるということでもあるが。
最初のコメントを投稿しよう!