果実のない孤島

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「皆さん、既にご酩酊のようですね。社長の京極凌平と申します。日頃は我社のためにご尽力頂き有難うございます。今夜は我社の管理職の方に来て頂きました。細やかですが皆様方と共に会食の場を設けさせて頂きました。キッチンルームに数人の料理人を控えさせておりますので、なにかご要望でも御座いましたらテーブルに置いてありますベルのボタンを押してください。料理人はすぐにやって来ますので仰ってください。ご要望にお応えできますかどうか、それは料理人の腕次第になりますが。今更自己紹介もなんですので、皆さん方で各々ご親交頂きますよう宜しくお願いします。今夜は忌憚なく大いに盛り上がって下さい。....」    京極凌平と言うのか、社長は私の方をじっと見ながら淡々と言った。どんなに取り繕っても、あの潤んだ眼差しは寂しさを隠し切れないのだ。私が拭ってあげたい。夫が太鼓判を押したこの馨しい肌で、全身の肌で。きっと、あなたは幾久しく女人の肌から遠ざかっているのだから。私を人形のように玩んで、甚振って、私をこの別荘の廓に閉じ込めて。あの尼崎のボロアパートとでもなく、ましてや関東の陸の孤島の古マンションの小部屋でもなく、この夕凪に満ちる夏の終わりを知らない悩ましく(かげ)ろう愛の島に幽閉して欲しい。 「社長はん、歳の割には、めちゃイケメンやわ。わて惚れちまいそうやわ。もっと明るかったらよう見えるに、残念やわ」 「静かにせぇ。お前はどうしょうもない奴や」 「何言うとるんや、あんたも見習わな、あかんよ」 「しーっ、黙らんか、このアホたれ」  本当に、この方たちウザいかぎりだ。なんとかして社長と二人だけにならなくてはならない。
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