果実のない孤島

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「ええ、わかりましたわ。私はリカちゃん人形よ。私もあなたにお見せしますわ。あなたが未だかつて見たこともない、夫の手練(しゅれん)の果てに靫葛(うつぼかずら)のようになってしまった私の濡れた秘密の肌をお見せしますわ。ご存分に危険な甘い罠に()まってください。お爺様たら、涅槃は近いですわよ。そのときは、私はお爺様の後姿にグラディエーターの雄姿を見たいと思いますので....」 「なんやと?グラディエーターだと?爺の僕がかあ?嬉しいことを言うてくれるのお。嘘でも嬉しいわ。あんたは昼間の僕に騙されたんじゃな。だがなあ、夜の僕はこんな嫌らしい爺でしかないんじゃ」 私は一刻も早くこの爺さんを涅槃に行かせようと思う。いや、そうなるように念ずるのだ。でも、そのあと私はどうすればよいのか、孤独な日々をどう過ごそう。私は夫の前では草臥れた人形であっても、夫への愛の成就が完全に萎えたわけではない。やはり私は帰るしかないのだ、夫の元に。そうなのだ、何ごともなく再び夫と逢えるように念ずるのだ。この果実のない孤島で夫との永遠(とは)の愛を成就出来るよう強く強く絶えることなく念ずるのだ。この爺さんの私の肌への執拗な嫌らしい刺激を夫の愛撫だと妄想しつつ....。
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