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「あんた、リカちゃん人形だけど、家に置きっ放しにして来たでしょう。これ、リカちゃん人形よ。これで安心した?」
私は夫にわざと新品のリカちゃん人形を差し出した。夫の反応をみるためだ。まだ興味を持っているかどうか知るためだった。やはり、夫の目つきが変わった。
「よく気が付くな。俺の趣味を忘れなかったのか。嬉しいよ」
「これで気分でも紛らわすのよ。でも、折角だから私を抱いてよ。セックスしましょうよ。当分会えないし。なんなら、定期的にここに通おうかなあ。というか、ここで一緒に住もうかなあ、いや、もっと増しなアパートにでも引っ越して、私たち二人で関西生活を始めようかなあ?どう?....」
私たちには子供がいなかった。ずっとマンネリの結婚生活が続いているのだ。今のこの状況は、そのマンネリに寸分の風穴を開けているに違いないのだ。
「じゃ、ベッドに入れよ。全裸になれよ。お前の肌の感触を忘れかけていたところなんだ。例のように俺の舌でお前の身体を隅々舐めまわすとするか。よいな!」
「それって、谷崎潤一郎の『鍵』のベッドシーンと同じことをするつもりなのね?でも、悪い気はしないわ。今更....」
私は全裸になりベッドに仰向けになった。夫も全裸になり私に纏わりついてきた。私は『鍵』の濡れ場シーンを想いつつ、このひと時を過ごそうと思った。
だが、仰向けになった私は見た。いや見てしまったのだ。天井際の収納庫の半開きになっている扉の陰からはみ出している女の人形らしき右足のつま先を。夫は私が訪ねて来たことに動転し、慌てて隠したのだ。ちゃんと扉を閉めていれば良いものを。
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