255人が本棚に入れています
本棚に追加
2
次の日の朝、熱は下がっていた。少し、咳はあるけれど行けると思った。そう思ったら、テンションが上がった。これ以上は後れを取れない。また、孤独な学校生活が始まるのだけは、絶対に避けなければならないのだ。
マスクは付けていった。咳が今朝よりも酷くなっていたからだ。
教室のドアの前まできて、一呼吸入れてみる。緊張している。鼓動が強く全身を叩いていた。
こんなところで怯んでいられないのに……。
前に進まなければ何も変化は得られない。今までと同じまま。
ずっと、それでいいのか?
いや、そんなのはまっぴらごめんだ。だから、前へ進む。そう、前へ進むんだ。
よし、と意を決して雪春は一歩、中へ入った。すると、急に喧噪に包まれた。
この感覚。なんだか嫌な予感がする。自分一人だけが、空間の歪みに入り込んでしまったみたいだ。椅子を引く音。パタパタと歩く足音。ケタケタと笑い声が響き、言葉は千々に飛び交い、重なり合い、自分にぶつかってくる。出遅れたやつは、一日休んだだけでも、こんなにも居心地が悪くなってしまう。そう感じてしまうのは、自分の性格のせいなのだろうか。柔軟に対応できないこの性格のせいで、歪みから抜け出せなくなってしまうのだろうか……。
自席に座り、とりあえず窓越しから外を眺めてみる。雲が一つもない薄い群青色の空が広がっていた。席は、窓際の後ろから二番目。――それだけが救いだった。もし、教室のど真ん中だったら息ができなかったと思う。
なんで、みんなはそんなに早く打ち解けられるんだろう。
疑問だった。
周囲は、楽しそうなお喋りと笑顔に満ちている。雪春にはそれが不思議な光景にしか見えなかった。
やっぱり、空気が薄い。酸欠になりそうだ。これじゃあ、中学生の時と一緒……。
おい、このまま自分の殻の中に閉じこもるつもりか?
自分が問いかけてきた。
眉をひそめる。
いや、破ってやる。そのヒビ割れに目掛けて、思い切りパンチをお見舞いしてやるさ。
最初のコメントを投稿しよう!