移ろい

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    2  次の日の朝、熱は下がっていた。少し、咳はあるけれど行けると思った。そう思ったら、テンションが上がった。これ以上は後れを取れない。また、孤独な学校生活が始まるのだけは、絶対に避けなければならないのだ。  マスクは付けていった。咳が今朝よりも酷くなっていたからだ。  教室のドアの前まできて、一呼吸入れてみる。緊張している。鼓動が強く全身を叩いていた。  こんなところで怯んでいられないのに……。  前に進まなければ何も変化は得られない。今までと同じまま。  ずっと、それでいいのか?  いや、そんなのはまっぴらごめんだ。だから、前へ進む。そう、前へ進むんだ。  よし、と意を決して雪春は一歩、中へ入った。すると、急に喧噪(けんそう)に包まれた。  この感覚。なんだか嫌な予感がする。自分一人だけが、空間の歪みに入り込んでしまったみたいだ。椅子を引く音。パタパタと歩く足音。ケタケタと笑い声が響き、言葉は千々(ちぢ)に飛び交い、重なり合い、自分にぶつかってくる。出遅れたやつは、一日休んだだけでも、こんなにも居心地が悪くなってしまう。そう感じてしまうのは、自分の性格のせいなのだろうか。柔軟に対応できないこの性格のせいで、歪みから抜け出せなくなってしまうのだろうか……。  自席に座り、とりあえず窓越しから外を眺めてみる。雲が一つもない薄い群青色の空が広がっていた。席は、窓際の後ろから二番目。――それだけが救いだった。もし、教室のど真ん中だったら息ができなかったと思う。  なんで、みんなはそんなに早く打ち解けられるんだろう。  疑問だった。  周囲は、楽しそうなお喋りと笑顔に満ちている。雪春にはそれが不思議な光景にしか見えなかった。  やっぱり、空気が薄い。酸欠になりそうだ。これじゃあ、中学生の時と一緒……。  おい、このまま自分の殻の中に閉じこもるつもりか?  自分が問いかけてきた。  眉をひそめる。  いや、破ってやる。そのヒビ割れに目掛けて、思い切りパンチをお見舞いしてやるさ。
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