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ある館
どこまで歩いてきたのだろう。
故郷の町を飛び出してから、長い月日が過ぎた。
地続きに歩き続けて、船を乗り継ぎ西方の田舎にたどり着いていた。
視界には一面の平野が広がっていて、世界がどこかまでも続いているような感じがする。
英二はバックパックを背負い直して歩き始めた。
英二が旅に出た理由はささいなことだった。
長年付き合った恋人の裏切りに合い、和解もせぬままに家を飛び出した。
旅の初めは恋人に対する恨みや悔しさで涙が止まらなかったが、歩くたびに胸につっかえたものが抜けていくようで英二の足取りも軽くなった。
気が付けば遠くに来ていて、ここがどこであるかも分からない。地図も持たない自由な旅であるが、自分の居場所さえ英二は知らなかった。
英二は森を突き進むと、急に視界が開け、目の間に館があった。
西洋風の館で、赤いレンガ造りの壁で屋根には煙突が伸びている。
館は森の湿った空気に包まれたように、不気味で人気が感じられない。
英二は恐る恐る館に近づいていく。歩き続けて腹が鳴り、館に宝物でもあるのではないかという好奇心が芽生えた。
英二は館のドアの前に立っていた。ドアを握るとカギは掛かっていないようできしんだ音を立ててドアが開いた。
英二は静寂の館に足を踏み入れた。
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