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出会い
1人、展望台にきた。時はもう日が暮れようとしている。
この街に来て半年がたった。
未だに友と呼べる友人もおらず、1人の時間がゆっくり流れていく。
ここには度々くる。日が落ちると、大通りには車の光の道ができる。そして、ビルや民家の窓の明かりがポツポツとつき始めると人の営みを感じて少しだけホッとするのだ。
「今日も終わるなぁ…」
と近くから声が聞こえた。声の方を向くと、そこにはカーキのジャケットを着た小柄な女性がいた。その横顔はとても整っていて、つい見とれてしまった。
「よくここに来るよね」
彼女はそういうと、僕の方を向きニコッと微笑んだ。
「初めまして、私は岡朋子。よろしく」
「僕は向井陽太。よろしく」
思わず口が動いた。
彼女はすっと後ろを指さすと、
「そこの売店で、コーヒーでもどう?」
と言った。
「いいね」
一言いうと、彼女はニコッとまた微笑んだ。それから僕達は気がつくと1時間ちかく話していた。
岡さんは進学してこの街にきた僕に色々なことを教えてくれた。お気に入りのサンドイッチ屋さん、日向ぼっこにいい公園、お勧めの図書館。特に共感したのは散歩がてらにいく湖の話だ。
よく話を聞いていると、岡さんはこの街で育ち、進学した僕と同じ大学の1年生だった。大人びて見えるなと思った。
僕は少し照れながら
「よかったら湖であわないか?」
と誘ってみた。
朋子の顔が、パッと明るくなり、
「いいよ」
と答えてくれた。
湖で会う約束をしてその日は別れた。それが、僕と朋子との出会いだった。
約束の日、朋子は小石を持ってきた。それは、海岸の砂浜にある研磨されたガラスのように透き通った小石だった。
朋子は小石を僕に手渡すと
「それじゃあ、行こう」
と言った。
どこに行こうというのか不可解な顔をしていると、無邪気に湖を指差した。
秋も深まろうという時期に何をと思う間もなく、
「えい!!」
と背中を押された。
気がつくと、目の前にキラキラと魚が泳いでいた。その中心には朋子がいた。
なんて美しい世界だろうか。言葉にならなかった。
「あそこに行くよ。」
朋子の声が聞こえる。
「あそこって?」
自分にびっくりした。水中で話ができる。息も苦しくない。戸惑う間もなく、朋子は指さす。そこには大きなシャボン玉のような水中都市があった。泳いでいるわけではない。まるで、宇宙飛行をしているかのように体がスーッと動く。
「陽太!すぐつくから!」
と朋子が言う。シャボン玉の膜のような虹色のところで、僕は思わず息を止めた。
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