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「はやくはやく!」
そうせかす息子に、
「危ないからゆっくり歩きなさい」
と注意しながら、ホタルの放流場所へ歩いていく。
初夏の暑さも夜になるとやわらぎ、かすかな風が心地よい。その点は出てきたかいがあったかな。
そんなことを考えていたときだった。小さな光が目の前を通り過ぎた。私は思わず立ち止まる。
「ホタル!」
息子が叫ぶ。
目に映るその光は想像していたような光じゃない。私が思っていたより、ずっとやわらかでかすかな光。
光はやがてスーッと空に消えていった。
「いこうよ、パパ!」
「ああ」
私は少し早足になる。木々の間の道を抜け、水の流れる小さな川へ出る。
「わあ、すごい!」
息子が興奮した声を上げる。
たくさんの光が飛び交っていた。
そこには大勢の人がいたが、話し声からみんなの胸おどる様子が伝わってくる。
気がつくと私も、すっかり光に見入っていた。
「こいつは……」
思っていたのと、全然ちがう。ただの光る虫じゃない。ゆっくり明滅しながら弧を描いて飛ぶ、緑がかった光、それは図鑑で見るのとはまるで違った。これはとても……
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