一・七五キロを投げる

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一・七五キロを投げる

**********  二メートル半の円と、約三十五度の扇が、グラウンドに引かれていた。懐かしい光景だと思ったが、俺がそこに立つ権利はないと思い直して、小さな落胆とともに家路を行く。何人かの見知った顔があるが、誰もこちらを見なかった。  事故一つで選手生命は失われると言われるが、実際に体験するまでは実感も湧かないものだった。  ――むしろ受験勉強に専念できるか。  額に手を当てて、そう呟いた。  それから、日が高くなったな、と空を見やる。校舎四階の窓辺で、前田が何やらグラウンドの方を見ているのを発見した。  彼は俺に気づくと、手を振って呼び止めてきた。 「天川ぁ、もう帰るのかよぉ」 「もう陸部は辞めたんだって」 「じゃあ文芸部来いよ、部員が足らねえから困ってんだ」 「はぁ?」  彼は俺の返答を聞く前に、校舎の中に入って行ってしまった。文芸部か――考えて、そもそもどこに部室があるんだよ、と突っ込んだ。推測するに、前田がいたあたりの教室だろう。少なくとも四階にはあるはずだ。  帰っても特にやることもない。時には腐れ縁のわがままにでも付き合ってやろう、そんな程度の気持ちで、俺は校舎に戻った。 **********
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