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古びた神社は、雨と古い木の匂いで満ちている。
今にも朽ち果てそうな木の柱にもたれかかり、僕は降りしきる雨をぼんやりと見つめていた。
ここには僕をからかう奴もいなければ、暴力を振るってくる奴もいない。この場所は地元でも有名な心霊スポットで、物好きな奴じゃないと決して近づいたりしないからだ。 僕は中学一年生の時から現在の二年生に上がるまで、頻繁にこの場所に来ていた。でも、幽霊なんて一度たりとも見たことがない。
幽霊はおろか、人ひとりいない。僕が一人になれる唯一の場所。恐怖よりも居心地の良さを僕に与えてくれていた。
そんな僕は今日、傘を盗まれた。
ビニール傘なら間違えて持って行ったと言い訳もつくだろうが、僕が持ってきたのは黒に茶色の柄のついた傘だ。名前だって、テープに書いたものを柄に張り付けてある。
にもかかわらず放課後に傘立てを覗くと、僕の傘は消え去っていた。毎度の事で策を練ろうとしても、いつも盗まれてしまう。
間抜けな僕は折り畳みにすればよかったのだと、今更ながらその失態に気づいて打ちひしがれていた。
「ずぶ濡れじゃん」
突然声を掛けられ、僕は驚きのあまり体が跳ね上がる。
気づくと目の前には、近くの高校の制服を着た少年が立っていた。黒い傘を手に持って、僕を驚いた目で見下ろしている。
まさかこんな場所に人がくるとは思ってもみず、僕は何も言葉を発することもできないまま彼を凝視する。
ふと、傘の柄を見ると、僕の名前が書かれたシールが貼られていた。
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