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しおさいには制服がなく勇翔がいつも着ているのは自前のTシャツ。そして短パン。エプロンも自前と聞いていたので美歩は昨日学校帰りに藤沢駅前のデパートで別デザインのものを3枚買った。 初日のために指示された仕事は4つだけ。お冷やを出すことと、なくなったらつぎ足すこと、できあがった料理を運ぶこと、そして客の帰ったテーブルの片づけ。 しかしその4つさえ美歩はうまくできなかった。お冷やをつぎ足すポットに氷を入れ過ぎて水が出なかったり、料理を運ぶとテーブル番号を間違えて別の席に持っていったり、席を片づけるのに慌てて食器を落とし割れなかったものの大きな音を立てたり。他にも「いらっしゃいませ」や「ありがとうございました」が大きく言えず、なに一つ満足にできないのが情けなかった。恥ずかしかった。足を引っぱってばかりいる。 休憩の2時半になると女子トイレに入り少し泣いた。これじゃ勇翔と知り合いそばにいられても好かれるどころか嫌われるだけ。しかしいつまでもこもっているわけにいかない、と10分で店に戻った。店には客がなく勇翔がひとりで賄い料理を食べている。美歩の分もテーブルにあった。和代は入院する夫の見舞いに出かけてもういない。美歩が席につくと、 「腹へったっしょ。昼はいつもこのぐらいだから、朝はしっかり食べてきて」と勇翔が言う。「どうぞ」    *** 11月9日に電子書籍を発売しました。作者の自己紹介にあるHP、または「あらすじ」の下部から購入サイトにお進みいただけます。ぜひ。
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