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まずい仕事ぶりをなんでもないように言ったのは彼のやさしさ、フォローで、それに報いるにはがんばるしかないじゃん、できるようになるしかないよ、と切り替えて美歩は次の日もアルバイトに来た。 「おはようございます」と店に入ると勇翔は寝ぼけた顔で客席の椅子を整えていて「おはよう」と言いながらあくびする。後頭部に派手な寝癖がついている。髪は営業中バンダナで覆ってしまうので勇翔はそのまま気にしなかった。 ランチタイムは昨日と同じくらい忙しく、しかし美歩は昨日より慣れた気がする。店と厨房をムダに往復するのは確実に減ったし、ミスも減った気がした。 休憩はまた2時半で美歩がトイレに行き用を足したあと店に戻ると先に賄いを食べ終えた勇翔は客席の椅子を4脚ならべて横になっていた。バンダナを広げて顔にかけ動かない。 寝ているのか、寝ていなくても寝不足らしい、と美歩は声をかけずに「いただきます」と小さく言って賄いを食べた。一緒にいても勇翔が会話を望んでないのが寂しくつまらない。勇翔とはまだろくに話してなかった。昨日話したのは勇翔の年齢。25歳。早生まれで誕生日は1月10日。美歩が質問してリサーチできたのはそれくらいだった。あとは勇翔に聞かれて美歩の大学の話。 「食べてすぐ寝ると牛になりますよ」と美歩は言ってみる。眠っていたら聞こえないと思ったがダメ元だった。 「モ~」とバンダナの下から勇翔の鳴き真似が聞こえ、美歩は驚いたが機嫌が直りニヤニヤしながら賄いを食べた。    *** 11月9日に電子書籍を発売しました。作者の自己紹介にあるHP、または「あらすじ」の下部から購入サイトにお進みいただけます。ぜひ。
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