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賄いのあと客入りはなく5時に「上がっていいよ」と勇翔に言われ、美歩は帰り支度をした。
「お先に失礼します」と厨房の勇翔に声をかけ、
「おー、お疲れさま。気をつけて」と答える勇翔は閉店作業の途中で、
「はい、ありがとうございます。お疲れさまです」と美歩はお辞儀したが動かない。立っている。
「どした?」と勇翔に聞かれ、
「今日はおっきいミスしなかったなって」
「あぁ、そうか。そうね、がんばった」
「いえ」と謙遜しつつも美歩は少し褒められたい気分だった。
「なに、時給交渉? もっと上げろ?」
「違います。そんなじゃないです」
「ばあちゃんに言っとく」
「言わなくていいです」
「助かってるよほんと、冗談抜きで」
美歩はうなずき「よかったです。じゃ」とまたお辞儀した。
「しあさってね」
「はい」
2日会えないのが美歩は寂しかった。同時に2日会えないのを勇翔がわかっているのがうれしかった。
店の戸をあけると中年男が外から戸に手をかけたところで「あ、すみません」と驚く。
「いえ、いらっしゃいませ」と美歩は後ろに下がり、
「え」と男はポカンとして、
「どうぞ」と美歩は会釈する。いつもの調子で『いらっしゃいませ』と言ったがエプロンなしの普段着だった。厨房の勇翔に向かって「お客さんです」と声をかける。それで店の者とわかるはず、と思う。男は連れがいて他に若い男女が1人ずつ。入った彼らに「失礼します」とまた会釈して店を出た。
***
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