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10時15分にロケ隊は来た。
先日美歩が店の出入口で鉢合わせたのはディレクターで「いつも通りで結構です」とテキパキ指示した。「お水出して注文取っていただいて、オススメ聞くんで海鮮丼と生シラス丼を勧めて下さい」
「はい」と和代がうなずく。
「あともう料理の準備はお願いします。別に撮っといて、食べたらすぐ引き上げます。営業のお邪魔しないように」
「はい」と勇翔がうなずく。
「あ、それとご注文聞くのは、そちら、娘さんにお願いできますか」とディレクターは美歩を見る。
「はぁ」と和代は振り向き、
「え、え、ちょっと」と美歩はあせる。
「このまえお見かけしてぜひ、と」
ディレクターが笑顔で言うと和代はまた振り向き「だって」と美歩にうなずく。
「そんな――」
お役御免を和代に訴えて美歩は油断していた。
「娘ってあんた、こんな若い子いるわけないでしょ」と和代はディレクターに言う。「孫よ孫」
「あ、お孫さんですか」
「いえ孫はこっち」と勇翔を指さす。「どう見ても娘じゃなく孫でしょって」
「いやいや、奥様お若いから、てっきり娘さんかと」
「やだもう」と言いつつ和代は上機嫌でディレクターを押す。「口うまいねこの人」
「ヘヘヘ、すんません」
「あ、あの、前髪がちょっと」と美歩は割り込もうとしたが無視された。
***
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