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角を曲がると彼はしおさいの戸を入り、美歩が来て見まわすと古い定食屋の店構え、ショーケース内のメニューサンプルは色褪せ、出入口は自動ドアでなく引戸。美歩は深呼吸してからあけた。
「いらっしゃいませ」と彼の声が聞こえたが姿はなく、店内には客もいなかった。「おひとりですか」と彼が奥から出てくる。
「あ、これ」と美歩はレモンを差し出した。
「レモン?」と彼は見ながら近づき、
「落としました」と言うと、
「あ、俺?」と驚く。
「袋から」と美歩がうなずくと、
「そう。ありがとう」と彼は苦笑し受け取る。「気づかなかった。わざわざすみません」とお辞儀する。「お礼に何か、飲んできます?」と横を指さす。壁にはお品書きがあってコーラやアイスコーヒーやアイスティーなどの文字があった。
「あ、いえ、ともだち待ってるんで」と美歩は外を指さし、
「そう」とうなずく彼に、
「じゃ」と言って外に出た。
「ありがとう」
「いえ」
仲見世通りに折れる角で振り向くと彼は美歩を見送っていた。微笑で会釈する。美歩も会釈して仲見世通りを下りた。おりながら頬が緩むのをとめられなかった。
***
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