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――――タクシーの中でさっきの出来事を思い返す。
(なぜ、手を握ってきたんだろう? 惚れてるのか? まさかね)
とはいえ、ドキッとしたことは確かだ。こんなことは何年ぶりだろう。
若い頃は、どちらかというと女性にモテた方だったと思うが、年をとってからはこんなことは無かった。
中国に来て気持ちが高ぶっているのだろうか。それとも、駐在員たちに皆彼女がいて、あわよくば自分もというスケベ心があるのか・・・。
そんなことを思っているうちにタクシーが止まった。10元を支払いタクシーから降りた。
(え、ここどこ?)
明らかに見覚えの無いところだ。
(おいおい、場所をきちんと説明してくれたんじゃないのかよ、ったく)
(どうしよう、中国語なんか話せないし・・・)
しかし、そんなことを言っている余裕はない。
帰ろうとしているタクシーの前に立ちはだかり、運転手に手のジェスチャーで×の格好をする。
「ここ、違う!」(日本語で言っても解らないか)
運転手が
「あー?」
と聞く。
何度も×のジェスチャーをする。
運転手が中国語でゆっくりと寮の場所の地名を聞いてくる。
聞いた名前だ。確かそんな名前だった。頷きながら〇のジェスチャーをすると、向こうもジャスチャーで乗れといってきた。
(ふー、あぶねー)
と思いながら、もう一度タクシーに乗り込んだ。
変な汗が噴き出しているのがわかった。
(今度違うところに連れて行かれたら岡本に電話しよう)
――――数分後、見覚えのある場所に無事到着し安堵した。すぐ近くの別の住宅街と勘違いしたんだろう。
タクシーを降りて近くのコンビニに寄り、明日の朝御飯のパンとミネラルウォーターを数本買った。
部屋に入り彼女との会話を思い返しながら床についた。
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