第2章 帰国前夜

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――――タクシーの中でさっきの出来事を思い返す。 (なぜ、手を握ってきたんだろう? 惚れてるのか? まさかね) とはいえ、ドキッとしたことは確かだ。こんなことは何年ぶりだろう。 若い頃は、どちらかというと女性にモテた方だったと思うが、年をとってからはこんなことは無かった。  中国に来て気持ちが高ぶっているのだろうか。それとも、駐在員たちに皆彼女がいて、あわよくば自分もというスケベ心があるのか・・・。  そんなことを思っているうちにタクシーが止まった。10元を支払いタクシーから降りた。 (え、ここどこ?) 明らかに見覚えの無いところだ。 (おいおい、場所をきちんと説明してくれたんじゃないのかよ、ったく) (どうしよう、中国語なんか話せないし・・・)  しかし、そんなことを言っている余裕はない。 帰ろうとしているタクシーの前に立ちはだかり、運転手に手のジェスチャーで×の格好をする。 「ここ、違う!」(日本語で言っても解らないか) 運転手が 「あー?」 と聞く。 何度も×のジェスチャーをする。 運転手が中国語でゆっくりと寮の場所の地名を聞いてくる。 聞いた名前だ。確かそんな名前だった。頷きながら〇のジェスチャーをすると、向こうもジャスチャーで乗れといってきた。 (ふー、あぶねー) と思いながら、もう一度タクシーに乗り込んだ。 変な汗が噴き出しているのがわかった。 (今度違うところに連れて行かれたら岡本に電話しよう) ――――数分後、見覚えのある場所に無事到着し安堵した。すぐ近くの別の住宅街と勘違いしたんだろう。  タクシーを降りて近くのコンビニに寄り、明日の朝御飯のパンとミネラルウォーターを数本買った。 部屋に入り彼女との会話を思い返しながら床についた。
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