第2章 帰国前夜

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 彼女は相変わらず、「かっこいいねー、やさしいねー」を連発している。  4人で結構楽しく飲んでいたが、明日は朝5時起きで空港まで行かなければいけない。上海の渋滞はひどいので、それを見越してかなり余裕を見ての出発だ。 「シュウリン、明日、日本に帰る。明日の朝早いからもう帰るよ」 「もう来ないの?」 「うーん、次は1ヵ月後かな」 「うん、わかた。来たときに電話して」 (うまいねー) (そういえば、名刺どこにやったっけ?) 「名刺無くしたかもしれない。もう一回頂戴」 「うん、持てくる」 そう言って彼女は、席を立った。 しばらくして、 「――――はい、これ」 「名刺一杯いるね」 「ううん、そんなにいらないよ」 「でも、お客さんに毎日渡してれば結構いるんじゃない?」 「名刺、誰にでも渡さないよ。良いと思た人だけ」 (どういう意味だろう。俺は良い人と思われてるのだろうか?それともカモなのか?それとも得意の営業トークか?) (ま、どっちでもいいけどね) 「じゃ、岡本、お前らはゆっくりしていけ」 そう言って岡本に800元(日本円で1万円ほど)を渡して店を出た。
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