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スカウト
「夕食どうする?」
日の暮れてきた部室で、真矢が透哉に問う。今日の夕餉は如何に。
「そうだなぁ。出前をとってもいいけど、何か食べに行くのもアリだな。って言っても今手持ちが……」
透哉が不安そうな顔で財布を開く。すると一枚の小さな紙がその財布から滑り落ちた。
「あ、忘れてた」
摘まみ上げる。丈夫な紙切れには人名や連絡先等が綺麗なフォントで描かれていた。
興味なさげに投げられた名刺は、手裏剣のように回転して見事にゴミ箱に……は、入らず真矢の机の上に着陸した。
「ん、何の名刺だ」
「悪い、捨てといてくれ」
真矢の手によって再び拾い上げられた名刺には芸能プロダクションと書かれている。
「……スカウトの名刺か」
「あぁ……。『モデルに興味ありませんか? お兄さんの体型と顔なら絶対売れますよ!』って」
真矢が半ば呆れた顔をする。
「透哉、興味が無いならその場で断るのも優しさだぞ。変に期待を持たせるのは良くないし、こうやって名刺を捨ててしまうのも失礼だ」
「分かってるんだけどよ、褒められたらつい……な」
「鍛えた筋肉が褒められると嬉しいのもわかるけどな」
「お前みたいに上手く断れねぇんだよなぁ」
「僕はただ『興味ありません』の一点張りで凌いでいるだけだよ」
「すげえよなぁ。あんな良い笑顔で『興味ない』って言われ続けたら、大抵諦めちゃうよ」
「で、どうするんだ?」
「いや、たとえどれだけ筋肉を褒められても、モデルになるつもりはねえよ。写真苦手なんだ」
「違う」
「えっ?」
「夕食だよ」
「あっ……」
「ラーメン食べに行こう。あと金貸してください」
透哉の財布はすっからかんだった。
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