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二人が初めて出会った、あの那須町共同利用模範牧場の天体観測から、十一年が経過していた。花凛も駿も二十八歳になっている。
変わらず付き合ってはいたが、高校の頃のようにいつも一緒というわけにはいかなくなっていた。
駿は高校を卒業後、東京の大学へ進学した。そして、そのまま東京の文具メーカーに就職。花凛は地元の大学へ進学し、そのまま地元の銀行に就職した。
栃木と東京では、遠距離とはいえないかもしれない。しかし、近いともいえない。会いたい時にすぐに会いに行くには多少のハードルがある。
大学の頃は、比較的まだ時間もあったのでしょっちゅう会えていたが、社会人ともなるとそうもいかない。仕事が休みである週末にしか会えなかった。
駿が車で地元に戻ってくるか、花凛が電車で東京へ行くか、その割合は花凛が動く方が多い。というのも、多忙さにおいては、圧倒的に駿が上だったからだ。
しかし、花凛にも忙しい時期がある。二人が忙しい時はもちろん会えない。それが続いて、一、二ヶ月まるまる会わないといったこともざらにあった。
そんな時、いつも思う。
「結婚したらいつも側にいられるのに」
結婚しなくても、同棲でもいい。
駿は今の会社での仕事が気に入っているようで、忙しくても楽しそうだ。とすれば、一緒に暮らすためには、花凛が銀行を辞めて東京へ行けばいい。
花凛の方は、仕事を辞めてもいいと思っている。決して嫌いというわけではないし、やりがいも感じている。それでも、駿と一緒になるのであれば、仕事を辞めても構わないと思っていた。
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