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『花凛、私結婚するんだ』
『子どもが生まれたの』
ここ数年、友人たちからの連絡といえばこれだ。
地元では、就職して二、三年も経てば結婚するという友人が多い。
駿のように都会に行った友人はまだバリバリ働いていて、仕事が楽しいと言っている。
田舎と都会では、やはり仕事の内容が違うのだろうか。都会の方が面白い仕事ができるのだろうか。
仕事がつまらないから結婚するというわけではないだろうが、実際、若くして結婚する率は地元の方が断然高い。
仲のいい友人の半数以上はすでに結婚している。そして、三十歳も近くなると、周りの声もうるさくなってくる。特に母親は容赦がない。
『中学の時に仲がよかった恵美ちゃん、結婚するんだって? あんたはいつなの?』
『由里ちゃん、二人目が生まれたって! お母さんも早く孫の顔が見たいわぁ』
『あんた、駿君とはどうなってんの? 結婚する気がないなら、もう別れた方がいいんじゃないの?』
心配しているのだということはわかる。しかし、母親の一言一言が鋭いナイフとなって胸を抉る。
友人たちはどんどん前に進んでいる。まるで置いてけぼりにされたように、心細くなる。これでいいのかと思う。
人は人、自分は自分。そう割り切ってはいたものの、さすがに十一年付き合ってきて、いまだそんな話が出ないのもどうなのだろうかと思う。
駿は花凛をどう思っているのだろう? 何を考えているのだろう?
駿が真面目で誠実であることは、花凛が一番よくわかっている。
花凛と付き合っているのに、他の誰かと付き合っているなどということはない……と思う。そういうことはできない、そう信じている。
それでも、本当に自分を想ってくれているのだろうか。
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