すれ違う心

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 花凛は一枚の封書を手にしていた。大学時代の友人の結婚式の招待状だ。  実は、それほど仲良くはなかった。しかしいくつか同じ授業を取っており、会えば会話を交わす仲ではあった。それくらいの付き合いだったので、出席は正直迷った。そしていろいろ考えた末、欠席の連絡をした。  周りに置いていかれる。そんな不安と焦りにまみれた気持ちで、結婚式に出席することはできない。きっと、心から祝えないと思うからだ。 「会いたい……」  会って、ちゃんと話がしたい。  これまで何となく避けていた話題だった。こういう話をすると、駿が嫌がるかもしれない。結婚しろと急かしているように取られることも嫌だった。  しかし、駿から何も言ってこない以上、もう待っているのは限界だった。  花凛は携帯のメッセージアプリを立ち上げ、駿にメッセージを打ち込む。  しばらく忙しいと言っていたが、ほんの少しの時間でもいい。会って話がしたかった。  この週末、東京へ行こう。そして、これからのことを話し合うのだ。 『あまりゆっくり時間は取れないかもしれないけど、部屋で待ってて』  駿からの返事を見て、ホッと息をつく。ダメだと言われたらどうしようかと思った。花凛は、それでもいいと返事をし、携帯を閉じる。  明日一日を乗り切れば、駿に会える。花凛は、駿の部屋で過ごす用意を始めた。といっても、荷物はそれほどない。置かせてもらえるものは、全て駿の部屋にあるからだ。  携帯のランプが光る。開くと、駿から一言「おやすみ」とメッセージが入っていた。素っ気ない、何てことはない一言。しかし、それでも嬉しいと思う。  花凛は「おやすみなさい」と、パンダが枕を抱えている可愛らしいスタンプを送る。そして、安心したようにベッドに横になる。駿に会えると安心したからか、あっという間に眠りに落ちていった。
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