すれ違う心

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 ***  花凛が駿の部屋へ着いたのは、21時すぎだった。しかし、まだ駿は帰ってきていない。花凛は合鍵を使って中に入る。 「あと一時間くらいは帰ってこなそうだな……」  遅くなる時は22時を過ぎることも多い。花凛はキッチンに向かい、途中で買った食材を出して食事を作り始めた。  一人なら食べてくるのだろうが、花凛が来るとわかっている時は、遅い時間になろうが食事は家でする。  家に帰って温かな料理があるというのは、本当に癒される。駿はいつもそう言ってくれた。なので、それほど料理に興味がなかった花凛だが、駿と離れてから母親から料理を教えてもらうようになった。それだけでなく、ネットでレシピを検索したり、自分でもいろいろ考えたりしていると、段々楽しいと思うようになっていた。  そんなこんなで、もう十年。花凛の腕もそれなりに上がっている。手早く準備をし、後は駿が帰ってきて温めるだけといったところまで仕上げた時、部屋のインターホンが鳴った。 「タイミングピッタリ」  花凛が画面で確認すると、思ったとおり駿が映っていた。入口のロックを解除し、急いでつけていたエプロンを外す。もう一度インターホンが鳴り、花凛は玄関のドアを開けた。 「おかえりなさい」 「ただいま」  少し疲れたような顔をしていたが、駿は笑顔で部屋の中に入ってくる。  この瞬間は、いつも何とも言えない気分になる。何気ない挨拶をして、笑顔をかわして。結婚はしていないが、気持ちだけはこっそりと夫婦になれる。 「うわ、美味そう! いつもありがとな、花凛」 「どういたしまして。お腹すいてるでしょ?」 「うん、すぐ着替えてくる」  駿はそう言って、寝室へ入っていった。  宣言どおり、すぐ部屋着に着替えてきて腰を下ろす。テーブルに並べられた料理を見て、また笑顔になった。 「いつもコンビニ弁当だと、やっぱ飽きるんだよなぁ。だから、ほんと助かる」 「駿はいつも喜んでくれるから、作り甲斐があるよ。さ、食べて食べて!」 「いただきます!」  花凛の作った料理を美味しそうに頬張る駿を見ていると、毎日この顔を見たいと思う。それと同時に、駿の方は毎日この料理を食べたいとは思ってくれないのだろうか。偶にだから嬉しいだけ? 毎日はいらない?  こんな思いも、これまでは口にしたことがなかった。駿を追い詰めたくないという気持ちもあるが、本当は怖かったのかもしれない。そうだ、と言われてしまうことが、何よりも怖かった。でも、いつまでもこれだと前には進めない。  一緒に食べ始めたというのに、駿の方はすでにほとんどを平らげていた。花凛の方は半分くらいしか食べていないが、今がチャンスだろう。  花凛は、思い切って思いを口にした。
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