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あれから、駿とは連絡を取っていない。
この十一年、数ヶ月会えないことはあっても、連絡を取らないということはなかった。
連絡を取っていないというのは正しくない。
駿からの連絡はあったのだ。ただ、花凛がそれに返事ができなかっただけ。そのうち、駿からも連絡が来なくなった。
自業自得とはいえ、これで終わりなのかと思う。この十一年はいったいなんだったのだろう。
あの日以来、花凛は気が抜けてしまったかのように日々を過ごしていた。
酷い顔色で家に戻ってきた花凛に、母親でさえ何も言わなかった。きっと、言えなかったのだと思う。何があったかは一目瞭然だったろう。母親は何も言わず、そっと見守ることにしたようだった。そしてそれは、花凛にとってもありがたかった。
そんなある日、花凛に一本の電話がかかってくる。相手は高校の頃の友人だった。
『花凛、同窓会行かないの?』
「同窓会?」
『連絡来てたでしょ?』
そう言われて、やっと思い出した。そういえば、同窓会開催のお知らせが来ていた。出欠を記して返送しなくてはいけなかったのに、すっかり忘れていた。
「忘れてた……」
『花凛にしては珍しいね。で、行くでしょ?』
出席が当然とばかりに言われ、花凛は言葉を詰まらせる。
同窓会といえば、近況報告の場だ。結婚している友人も多いし、子どももいたりするものだから、話題はもっぱらそういったものになる。今の花凛にそれは辛い。
「うーん……」
『皆、会えるのを楽しみにしてるよ。柏木君も戻ってくるでしょ?』
駿が出席するのかは知らない。ただ、あの忙しさだと出席しないのではないか。それとも、何とか時間を作って来るのだろうか。
「ちょっとわからないんだ。最近、すごく忙しいみたいだから」
そう言うと、向こうは少し間を空け、そっか、と言った。花凛の口調から、きっと何かを察したのだろう。その友人はそれ以上何も言わなかった。しかし、電話を切る間際、励ますように花凛に言った。
『昔の友だちに会うのも、いい気分転換になると思うよ。私も花凛に会いたい』
「……ありがとう」
花凛の心がふわりと温かくなる。友人の気遣いが嬉しかった。
電話を切った後、少し考える。
このまま何もしないで、ずっとうじうじするのか。このまま時が過ぎるのを待っていても、何も変わらない。
花凛は同窓会の案内状を見つけ出し、そっと触れた。
「行こうかな」
久しぶりに旧友と会うのもいいかもしれない。もしかすると、吹っ切れるかもしれない。
そんな風に思え、花凛は出席に丸をつけ、ポストに投函しに行った。
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