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「来てないみたい……ね」
「来てないみたいって、なんか他人事みたい。連絡は?」
梨絵の問いに、花凛は首を振る。
駿が来ていないのは、会場に入ってすぐにわかった。何故なら、ほんの僅かな希望にすがるように、会場中をぐるりと歩き、その姿を探したからだ。そして、駿の姿は見つけられなかった。つまり、駿は同窓会には来ていない。
「そ、そうなんだ! ま、仕事が忙しいのかもね。花凛ちゃんを寂しがらせるなんて、柏木君めー!」
梨絵がおちゃらけてくれたおかげで、その場は笑いで収まる。また明るい空気になり、よかったと胸を撫で下ろした。
その後は、天文部の面々でいろいろな話をした。お互いの近況報告を中心に、今抱えていることなど様々だ。クラスの友人たちより、部活の仲間の方が密接に繋がっていた。そのせいか、こうやって顔を合わせると、ついつい込み入った話もしてしまう。
皆、それぞれに抱えているものがある。能天気に笑っているようでも、何かしら悩みを抱え、日々を戦っている。皆、自分なりに頑張っているのだ。それがわかっただけでも、今日ここに来て本当によかったと思った。
「そういやさー、あの天球儀、まだあるのかな?」
坂田が思い出したように言った。
「あ、あれ? 坂田君がうっかり落として壊しちゃったやつ」
「壊してないし! ちょっと欠けただけだし!」
「それ、壊したって言うよな」
皆に責められ、口を尖らせる坂田を見ながら、花凛も思い出していた。
天文部の部室にあった、天球儀。天球儀とは、天球を表す球面上に、天体・星座の位置、その軌道などをしるしたものだ。地球儀の星版とでもいえばいいのか。
部室の天球儀はそれなりに古いものだった。しかし、皆が大切に扱っていた。
特に駿はその天球儀がお気に入りで、暇さえあれば眺めていたものだ。花凛に星座の話をする時も、星座盤よりも天球儀を側に置いて、あれこれ指差していた。
坂田が何かの拍子に落としてしまい、少し欠けてしまったのだが、その欠けた部分を必死に修理したのも駿だった。
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