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「松下先生から許可をもらった。行こう」
「え?」
花凛の手を取る小林に、花凛が皆を振り返る。坂田と梨絵は行かないのだろうか。
「坂田と遠藤は寒いのダメだろ? ここで美味しいもの食べていたいだろうし」
「失敬だな! でも、それは事実」
「えっと……私も」
坂田と梨絵は小さく肩を竦める。
せっかく綺麗な格好をして、立派なホテルの豪華な食事を堪能しているのだ。わざわざ学校になど行きたくないだろう。
「小林君は? 行きたいのは私なんだし、一人で……」
「女子一人で真っ暗な学校に行くとか、無茶にも程がある」
「あの……」
「行っておいでよ。小林君がいいって言ってるんだし」
「そうだよ。いってらっしゃーい!」
「というわけだから。それに、俺も見たいなって思ったから」
そう言って小林が笑うので、花凛はありがたく一緒に行ってもらうことにする。
「ありがとう、小林君」
「どういたしまして。実は車で来てるんだ。丁度よかった」
車で来ているということは、アルコールは飲まないつもりだったのだろうか?
尋ねると、小林は照れたように言った。
「俺、アルコールダメなんだわ。下戸」
行きたい気持ちは高まっていたが、本当に行けるとは思わなかった。
ここから高校までは多少距離がある。しかし、交通機関は頻繁には動いていない時間だ。どうしたって車を使う必要があった。もし行けるのなら、タクシーを使うつもりだったのだが……。
「先生に連絡してくれただけでなく、車まで出してもらって……本当にありがとう」
重ね重ね、小林には感謝しかない。花凛が深く頭を下げると、小林は腕を伸ばして花凛の頭を上げさせる。
「そんなに感謝されても困る。俺も行きたいんだから、気にしないで」
そう言って笑う小林に、花凛の顔も柔らかくほころんだ。
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