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「お、着いた。ほんっと懐かしいなー」
小林が取っ手に手をかけ、扉をガラリと開ける。
すると、中からふわりと懐かしい香りが漂ってきた。埃やら、木材、紙など、様々なものが混ざり合った匂い。中に足を踏み入れると、その匂いは更に強くなった。
「ここに入るだけで、高校生に戻ったみたいになるな」
小林がしみじみとそう呟き、花凛もそれに同意する。まるでタイムスリップでもしたような感覚になった。
「あ、天球儀」
窓際の端にそっと置かれている天球儀を見つけ、花凛はそこへ駆け寄る。駿が修理をした部分もそのままになっていて、花凛の顔に笑みが浮かんだ。
「坂田君が壊したとこだ」
「駿が修理しなきゃ、欠けたままだった。他は大丈夫みたいだから、後輩は大事にしてくれてるみたいだな」
二人顔を見合わせて笑う。
その場所にそっと撫でるように触れ、花凛は溜息をついた。すると、小林が不思議そうな顔で花凛の方を向く。
「こんなこと、聞いていいのかわからないけど……もしかして、駿と何かあった?」
同窓会には来ていない、その理由もはっきりとは知らない。付き合っているのに普通それはない。小林が何かあったと思うのも無理はなかった。
「何か……っていう具体的なものはないのかな。でも、どこかですれ違っちゃったみたい」
花凛がポツリと呟く。小林に困ったような笑みを向けると、そんな顔するなよ、と苦笑されてしまった。
「仕事が忙しいなら、余裕がないっていうのはわかる。でも、そういうのはちゃんと話し合えば解決できるものだろ?」
「そうなんだけどね。でも……たぶん駿は、私との未来を考えてない気がするんだ」
「未来……?」
「私たち、もう付き合って十一年なんだけど」
「うわ、そんなにか! でも、そうか、高三になる少し前には付き合ってたもんな……」
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