天球儀の内と外

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 花凛は再び天球儀に手を触れる。この天球儀を傍らに置き、星の話をしてくれた駿の顔が、今でも鮮やかに思い出される。瞳をキラキラとさせ、夢中になっていた駿の顔。その顔を見るだけで、楽しい気持ちになれたし、嬉しかった。どんどん駿に惹かれていった。 「天球儀にある星座の位置って、東西逆でしょ。星座盤に書かれているのは、天球儀の内側から見た位置なんだよね。だから最初、混乱しちゃったの」 「あぁ、ちょっとわかる。初めて見ると、あれっ? て思う」  例えるなら、鏡のこちら側と向こう側のようなものだ。左右が逆になる。こちら側では右のものが、向こう側では左になる。同じに見えて、同じではない。 「駿が見ている未来と、私が見ている未来は、逆なのかもしれない」  駿が花凛とのことをどう考えていたのかは、はっきりとはわからない。しかし、花凛と違うことだけは確かだ。  花凛は駿の側にいたい、しかし駿はそうではなかった。待ってほしいとは言われたが、何を待てばいいのかわからなかった。どうして待たなくてはいけないのかも、わからないままだ。仮に駿から理由を聞いたとしても、自分に理解できるかどうかは、自信がなかった。 「私はただ、一緒にいたかっただけなの。側にいて駿を支えたかった。仕事は大変みたいだけど、楽しそうにしてたし、駿はそのまま東京で働いてもらって構わなかった。私が側に行けばいいって思ってたの。でも……駿はそれには賛成してくれなかった」 「藤田」 「私と駿、まるで天球儀の内と外だね。私は天球儀の内側から星を見てて、駿は外側から見てるの。だから、見てる方向が全く逆になっちゃってる。……こんなんで、この先うまくやっていけるわけないよね」  この古い天球儀を見て、今の自分と駿の立ち位置が見えた気がした。腑には落ちたが、どうにも悲しくなってくる。二人の関係はもうダメだと、念を押されたような気持ちになった。
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