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まさにそれは、花凛の気持ちそのものだった。あまりにも的確に言葉にされ、花凛は改めて自分の気持ちを思い知る。
とにかく不安でたまらなかった。その中には、もちろん焦りもある。
駿の気持ちを疑うわけではない。しかし、駿は何気に昔からモテていた。特にイケメンというわけでもないのだが、夢中になると子どものように無邪気になるところなどは母性本能をくすぐられるし、感謝や謝罪の気持ちを素直に言葉にするところなどは好感が持てる。高校時代もちょくちょく告白はされていたようで、そういった心配は常にあった。
しかし、大事にしてもらえていることは花凛もわかっていたし、駿から言い出してくれるのをずっと待っていた。そして、すぐに言ってもらえると思っていた。なのに、そうではなかった。だから、不安や焦りは増したのだ。それでも、なかなか言い出せなかった。そして、やっと言えたと思ったところに、あの言葉。
『僕は花凛と同棲はしない』
「ま、あれだけ脅せばあいつも……」
小林の言葉は灸を据える意味だったようで、花凛はホッとする。
しかし次の瞬間、突然響く大きな音に、二人はほぼ同時に身体をビクリと震わせた。
「え、誰……」
「は? まさかそんなわけ……」
その音は激しく駆ける音で、それは段々とこちらに近づいてくる。恐怖のあまり、花凛はしゃがみこんで身体を抱える。小林は庇うように花凛の肩を抱いた。
ガラガラガラッ!
壊れるかと思うような音で、部室の扉が開く。花凛はぎゅっと目を瞑る。
「え、なんで……」
小林の放心したような声の後、花凛の身体が強く引き寄せられる。思わず悲鳴をあげそうになり、口を手でふさがれた。
「う……う……」
涙目で振り仰ぐと、肩を大きく上下させ、額に汗を滲ませている駿の顔がある。訳がわからないのと安堵で、花凛の身体からガクッと力が抜けた。
「危ないっ」
駿に支えられ、花凛は半信半疑の体で駿の顔を見つめる。東京にいるはずの駿が、こんな短時間でここへ来られるはずがない。
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