271人が本棚に入れています
本棚に追加
/46ページ
花凛は笑って駿の手を取る。
すでに手遅れかもしれないが、これで風邪をひいても構わないと思った。それほど、雪の上から見上げた景色は壮大だったのだ。この合宿で、一番忘れられない思い出かもしれない。
駿を見ると、双眼鏡で空を見ていた。そういえば、倒れた時、大丈夫だったのだろうか。
「双眼鏡、大丈夫? 濡れたりしてない?」
心配で尋ねると、大丈夫と駿が言って、双眼鏡を花凛に手渡す。
「え?」
「それで見ると、すごくよく見える。面白いと思う」
「……ありがとう」
花凛は双眼鏡を空に向け、レンズを覗き込んだ。そこには、宇宙が広がっている。どこを見ても星だらけ、いつまででも見ていられると思った。
「うわっ」
レンズを覗いたまま動いたので、バランスを崩す。駿は咄嗟に腕を出し、花凛の身体を受け止めた。
「ごめん!」
「動くときは双眼鏡を離さなきゃダメだ。でもまぁ、気持ちはわかるけど」
「……すごいね。この中に宇宙が広がってた」
花凛の言葉に、駿が何度も頷いて同意する。
「そうそう、そうなんだよ!」
「私も双眼鏡、用意してくればよかったなぁ。でも高そう」
「安くはないかもだけど、手が出ないほど高いってわけでもない。これ、ハイアイポイントっていって、双眼鏡の接眼部から目を離しても、すべての視野を見通せる機能がついてるんだ。だから、眼鏡をしたままでも全然平気だし、肌に触れるのが嫌だって場合も離してて大丈夫。内部に窒素ガスが封入されているから、水分が入りにくくなってるし、アウトドアにも適している。おすすめ」
まるで店員のようなセールストークに、つい笑ってしまう。
最初のコメントを投稿しよう!