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■23
「はー。これは珍しい組み合わせだな」
岸一さんが言う。
「タカナシさん。お久しぶりです」
「岸一さん」
私たちがあいさつすると、トウノさんはちょっとびっくりした顔をした。
「知り合い?」
「6本指の腕の第一発見者はタカナシさんだよ」
岸一さんが言うと、トウノさんは私を見た。
「そして、腕と遺体が別人のものだと見抜いたのも、タカナシさんだからな」
「へえ……」
トウノさんが感心したように私を見る。
「ユウさんって、すごい観察眼があるんですね」
私はなんだか恥ずかしくなってきた。観察眼があるというより、幻覚が見えているだけである。
証拠に、今視界に入っているトウノさんの腕は見事な白百合だし、岸一さんの腕は以前と同じようなリンドウの花である。いや、以前見たリンドウの花よりも、心なしかつやつやしてみずみずしい。岸一さん、ちゃんと休めているらしい。
「ええっと……それで、お二人は知り合いなんですか?」
今度は逆に、私がトウノさんと岸一さんに尋ねてみた。
「ああ……」
岸一さんがちょっと嫌そうな顔をする。
「こいつとは腐れ縁でね。学生時代からの付き合いだよ」
私は岸一さんの学生時代を想像しようとして、できないのでやめた。
「トウノは『腕落し』の事件になるとしつこくてね。いつも絡んでくるんだ」
岸一さんが、やれやれといった様子で肩をすくめた。
「ええと、どういった経緯で……」
「川井サナエの事件」
腕なし遺体で発見された、トウノさんの恋人の事件だ。
「あの件以来、しつこくてしつこくて……」
「僕が役に立たなかったこと、あった?」
トウノさんが、むっとした表情で言う。
「あー……いいか、我々警察は、一般人においそれと情報提供なんかできないんだぞ。お前もいいかげんにしておけよ。あんまり危ない話に首を突っ込むな」
どうやらトウノさんは、ずっと以前から川井サナエの事件を追いかけているらしい。
「それで、なんなんだ。私を呼びつけた理由は」
岸一さんとトウノさんはだいぶ親しいようだ。
「それが、6本指の腕の遺体の件についてなんだけど、新たな情報が入って」
「新たな情報ねぇ…警察の情報網舐めてもらっちゃ困るぞ」
「僕の情報網も舐めてもらっちゃ困るよ」
トウノさん、ずいぶん楽しそうだな。
「じゃ、聞こうか、素人の新たな情報、とやらを」
「上郷さんは妊娠していたんだ」
岸一さんが動きを止めた。
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