ケリドウェンの燈油

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因みに、今見ている甕に限って言うと、『Σόλων』と書かれている。 んー…ふふ、いや、今の私なら、これが何の言語で何の意味なのかは説明出来るのだが、しかし当時の私は、自分の夢の内容であるにも関わらず、 …『Σόλων』?これって…文字だよね?なんて書いてあるんだろう…?どっかで見た事ある気もするんだけど… と、大袈裟に言えば、穴が開くんじゃないかって程に、甕の側面を見つめて眺めていた。 と、そうしている時、クスッと小さな微笑みが聞こえたので、我に帰ってと言うのか、私はハッとしたのと同時に横に顔を向けた。 そこには、ますます微笑度合いを強める男の顔があった。 それから少しの間顔を見合わせていたのだが、男が中々口火を切ろうとしないので、仕方なく私から話しかける事にした。 「これって…何か書かれて…いるね?何か文字みたいだけれど…?」 と私が聞くと、「ふふ、そうだね」と男はすぐに間を空ける事なく微笑みつつ口にすると、文字の書かれた辺りを手のひらで何度か摩りつつ続けて言った。 「うん、ここに書かれているのは実は…名前なんだ。この甕の中身を作った、数え切れないほどに昔の、僕からしたら”偉人”である人達のね」 「へぇ…って、あ、じゃあ」 と私はある事に不意に思い至ったので、頭に浮かんだその考えをそのまま、また視線を甕に移して続けて聞いた。 「私には、ここに書かれている文字が読めないんだけれど、これってケリドウェンって書いてあるの?」
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